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更新日:2024年1月15日

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特集 「伝える」視覚障害者を音で支えるボランティア

CCBY 但し、画像データは除きます


山田緑(やまだみどり)さん

区内では、えどがわボランティアセンターに登録しているだけでも163団体、3600人もの方々がボランティアとして活動しています。幅広い活躍の場の中から、視覚障害者の情報アクセスを支える音訳ボランティアの方々の活動をご紹介します。

“墨”から“音”へ

皆さんは「墨字版」という言葉を聞いたことがありますか?例えば、今まさに皆さんが手にしている冊子が、「広報えどがわ」の“墨字版”。紙にインクで文字や図版を刷った出版物のことを指す言葉です。

では他にどんな“版”があるかというと、「広報えどがわ」の場合は紙の表面にエンボスと呼ばれる凹凸で点字を表した「点字版」、それから、全文を朗読によって音声化した「音訳版」の二つ。どちらも視覚障害のある方に区の情報をタイムリーにお届けする重要な役割を担っています。

このうち、月2回発行する音訳版の朗読を担ってくださるのは、二つのボランティア団体の方々です。墨字を、視覚障害のある方に伝わる形に変えるための朗読作業「音訳」の現場をのぞいてみましょう。

「ナマズニ」?それとも「ナヤマズニ」?

「一人で悩まずにご相談ください。問い合わせ先は、いのちの支援係。電話、レーサン、ゴーロクロクイチ…」

中央図書館の3階にある、3畳ほどの録音室。広報えどがわ音訳版の令和5年12月15日号で催しもの記事の朗読を担当する「音訳百舌の会」の山田緑さんがマイクに向かってリハーサルをしていると、すぐ横に座っているメンバーの手がスッと挙がりました。

「2拍目だけ上がる『ナマズニ』ではなくて、3拍目も高く『ナヤマズニ』って感じでいきましょうか」

百舌の会の朗読作業は、3人一組が基本です。読み手が朗読している間、校正者と呼ばれる2人は読みの間違いや読み飛ばしがないか、唇が弾ける音や息継ぎ音などの雑音が混じっていないか、耳をそばだててチェック。気が付いた点を読み手に助言し、録音の質を高めていくのですが、難しいのが発音にまつわる校正です。

音訳作業は、公共放送をお手本とした、いわゆる標準語での発音が基本。しかし、例えば江戸っ子が「東」を「しがし」と発音する、関西出身の方が「ファックス」の「ク」を母音の「ウ」までくっきり発音する、あるいは「先生」を読む際に「んせい」と単語の頭が高くなる―というような方言の影響、あるいは個人の発音の癖は、誰でも多かれ少なかれ無意識のうちに出てくるもの。指摘を受けてもその場で修正するのは簡単なことではありません。

さて“ナマズニ”の山田さん。仲間の発音をお手本に10回ほどその箇所を繰り返して、いざ本番へ――。

「一人で悩まずにご相談ください」

無言のまま小さくうなずく校正者の2人。“OK!”の合図です。


作業日の朝、控室で朗読の分担表を確認する「音訳百舌の会」の皆さん。原稿が配られ、部屋のあちこちで発声練習も兼ねた下読みが始まると、控室はにわかににぎやかになっていきます。

コロナ禍を超えて

コロナ禍のさなかも、音訳版を必要とする方のために、音訳作業が途切れることはありませんでした。しかし密閉された録音室に人が寄り合う録音方式はまさに“三密”。感染対策として、各自が自宅で録音し、持ち寄ったデータを編集するリモート体制を構築するなどの対応を迫られました。この仕組みは今でも有効に活用されていて、中央図書館には集まらず、自宅で朗読することで作業に参加するメンバーも3分の1ほどいます。

一方で、「やはり一堂に会して読むのが好き」という方が多数派で、先ほどの山田さんもその一人。

「今日みたいに思いもしなかったところをその場で指摘してもらうと、『面白いなー!』って感じますね。だって普段の生活でこんな風に発音の話をすることなんてないでしょう?集まって作業していれば、校正の担当の人以外にもいろんな人に意見を聞くこともできるし、他の読み手のリハーサルも聞こえてくるし、とっても刺激になるんですよ」

この日の担当記事を全て読み終えた山田さんが、はつらつとした笑顔を見せます。


メンバーが自宅で録音した音源をペアで校正する「音訳百舌の会」の代表・西田麻里子(にしだまりこ)さん(右)。「コロナ禍で急きょ取り入れたリモートの制作体制にもすっかり慣れてきました」と話します。

笑うわけにはいかない

音訳団体の役割には、「広報えどがわ」のような不特定多数に向けた定期刊行物の音訳の他に、利用者の希望する本を個別に対面で朗読する、録音して提供するという活動もあります。

この日、視覚障害のある内藤孝子(ないとうたかこ)さんが音訳ボランティア団体の「風の会」に対面朗読を依頼したのは、作家・酒井順子(さかいじゅんこ)さんによるエッセイ集です。

「酒井さんの作品は音訳データベースでも提供されているんだけど、この本はなかなか音訳されないから、待ちきれなくって」と内藤さん。

内容は、加齢に伴う容姿の変化などのやや際どい話題を、軽妙に皮肉交じりでつづったもの。風の会の原和子(はらかずこ)さんの朗読で痛烈な酒井節が炸裂すると、内藤さんが「フフフ」「アハハ」と声を挙げて笑います。

しかしその間も原さんの朗読は少しも揺らぎません。笑ってしまうことはないのでしょうか。

「聞いていただいている途中に、読み手が笑うわけにはいかないんですよ」―休憩時に水筒のお茶で喉を潤しながら原さんが教えてくれました。

「そもそも今回のように当日に初めて読む本の場合はそんな余裕がありません。一定のペースで読んでいても『この漢字は訓読み?音読み?』『次の段落との区切りは長めがいいのかな?』『ああ、つっかえちゃった!』と頭の中は大忙しですから」


左から原さん、内藤さん、「風の会」代表の田部井恵子(たべいけいこ)さん。「私はどうしてもおかしなところは利用者さんと一緒に笑っちゃうこともあるかも。そこは利用者の方のご要望次第です」(田部井さん)

「機械は機械なの」

近年はAI技術の向上などにより、人間を介さず、コンピューターで音声化する機械読み上げが発達してきています。

スマートフォンを使いこなし、音訳でパソコン雑誌からも情報を仕入れるデジタル派の内藤さんは、「正確だし、スピードも自在に変えられるし、何度だって繰り返せるし、それはそれは便利」と機械読み上げの高性能化を歓迎しています。

「でも正確で便利っていうそれだけで、機械は機械なのよね。時々つっかえることがあったとしても、週に1回しか都合がつかなくても、こうして人の声で朗読してもらうことの代わりにはならないんですよ」

内藤さんの率直な感想を聞き、原さんに安堵したような表情が浮かびます。

目指すのは“伝わる音”

「広報えどがわ」などの定期刊行物や利用者から依頼された書籍などを朗読した音源は、目次を元に聞きたいページや見出しから再生できるよう編集されます。このようなデータは「デイジー図書」と呼ばれ、CDなどの形で利用者の元に届けられています。

デイジー図書への編集作業は、簡易なものであれば音訳団体が自前で行うこともありますが、広報誌のように多数の記事を短期間に処理しなければいけない媒体や、章立てが複雑な資料については、編集技術を持つメンバーがそろうボランティア団体「デイジー江戸川」の出番となります。

代表を務める妹尾せつ子(せおせつこ)さん(下記写真)は、まだテープ録音しかない平成元年から音訳ボランティアに取り組み始めたベテラン音訳者でもあります。その後、パソコンが普及し、個人でもデイジー編集を行える環境が整ってきた平成11年に、区内ボランティアの力で音訳からデイジー編集までを完結できる体制を目指した「デイジー江戸川」の立ち上げに参画。以来、四半世紀近くも音訳とデイジー編集の“二足のわらじ”を続けてきました。

編集の工程では、録音環境の違いによる音量などのばらつきを整え、適切な区切り位置を設定することで“いかにストレスなく聞ける仕立てとするか”が肝心になるといいます。

小学生の頃、全校朝会の列を抜け、裏方の放送当番として放送室に向かったことが“伝える”ことのやりがいに気づいた原体験という妹尾さん。

「音訳も編集も共通して目指すのは、なによりまず利用者の方が内容に集中できる音、伝わる音。放送当番の時と同じように、どちらも舞台裏の黒子の仕事だと思います」

こうした方々の情熱が、視覚障害者の方々に不可欠な「音訳」という情報の世界を支えています。


「デイジー江戸川」代表の妹尾さん。近年は音訳の指導者として後進の育成にも力を入れています。

デイジー録音図書製作講座

視覚障害者の読書環境向上のため、録音された音声データをパソコンで編集して、CDを作成するボランティアの養成講座です。

【日時】2月19日(月曜日)・20日(火曜日)10時30分~16時(全2回)

【場所】グリーンパレス4階集会室403

【対象】18歳以上で、自身のノートパソコン(Windows 10以降)で作業とメール送受信ができる方

【定員】15人(申込順)

【申し込み】1月16日(火曜日)9時から電話(下記)で

問い合わせ

えどがわボランティアセンター 電話:03-5662-7671

ボランティア活動をやってみたい方

「自分もボランティア活動に参加してみたい!」という方はボランティアセンターにご相談ください。ホームページ別ウィンドウで開きますでは活動内容や活動地域からボランティアを募集している施設や団体を検索できます。
また、ボランティアの力を借りたい方の募集のお手伝いもしています。

問い合わせ

えどがわボランティアセンター 電話:03-5662-7671

このページに関するお問い合わせ

このページはSDGs推進部広報課が担当しています。

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