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更新日:2023年4月15日

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特集 野球?!…のようなスポーツから共生社会が見えてくる

~クリケット&デュランタベースボール~

サッカーと並び競技人口もファンも多い日本のメジャースポーツ「野球」。小学校・中学校・高校の各世代に全国レベルの強豪チームがある江戸川区は、都内でも野球の盛んな区といえるでしょう。そんな野球と“似ている”けれども、あまり知られていない二つのスポーツ「クリケット」と「デュランタベースボール」のことを調べたら、江戸川区の目指す共生社会につながるヒントが見えてきました。

”不思議”なスポーツ「クリケット」

「さあ注目の初球…ピッチャー投げた!バッターこれを大きく横へ打ち上げてしまって、ファウル―いや、ファウルではありません!ろ…6点?!なんと6点が入ったようです!これは一体何が起きたのでしょう?!」
野球の親戚とされる球技「クリケット」を、もし”野球目線”で実況したら、こんなとんちんかんなものになるかもしれません。投げる・打つ・走るというゲームの基本こそ共通ですが、投手が助走して投げたり、真横や後方へ飛んだ打球でもヒットになったりと、野球との違いがさまざま。「不思議なスポーツ」と感じる人も多いでしょう。
「でも逆にインド人の私が日本に来て初めて野球を見た時は、これほど不思議なスポーツはないと思いましたよ」
”クリケット目線”から野球に触れた思い出をそう振り返るのは、区内の国際校「GIIS(グローバルインディアンインターナショナルスクール)」(本部=西葛西)の課外活動でクリケット部を指導するアグスティン・ジェイコブさんです。
「満塁の場面では『なんでバッツマンが4人に増えているんだ?』と驚いたし、ファウルが打ち上がれば『フェンスを越える長打なのに、どうして盛り上がらないんだ?今のは文句なしの6点打のはずだ!』という具合。もう訳が分からなかった」
ジェイコブさんが頭をグラグラと揺すりながら笑います。

部員に声をかけるジェイコブさん。指導中はめったに笑顔を見せないが、生徒たちは「ジェントルマンであり、素晴らしいプレーヤー」と彼を慕う

インドでも区内国際校でも根強い人気

英国発祥で、競技人口は世界で推定3億人にも上るクリケットですが、その半数の1億5000万人をインド人が占めるとされ、"見るスポーツ"としての人気も、インドでビッグマッチのテレビ中継があれば翌朝の学校や職場はその話題で持ち切りとなるほど。インド人の生徒が多いGIISでも体育の授業で親しまれているほか、クリケット部には小学生から高校生に相当する計36人が所属しています。
部員の一人、10年生のニハル・パルマルさんは15歳にしてU19(19歳以下)日本代表にも選ばれている部の主力選手です。
”二刀流”で打席にも立ちますが、高いジャンプとともに急角度で投げ下ろす投球こそ最大のアピールポイント。「鋭くバウンドさせてウィケットをひっくり返すボールを投げ込めた時は、最高の気分!」と投手目線での醍醐味を語ります。

下級生とともに投球練習に打ち込むパルマルさん。時速100キロ超の速球と、バウンド時に予想外の向きに飛び跳ねる変化球で打者を揺さぶる

打者2人1組で連携プレー

一方、「僕はやっぱり打撃だな。かっ飛ばすだけでなく、うまく転がしてペアで息を合わせて走るのも面白いから」とつぶやくのは同じく10年生のニティンチャトラパティ・サラワナクマルさん。
クリケットの攻撃側は、打者が必ず2人1組のペアを組み、野球でいう打席の位置に1人、投手のすぐ隣にもう1人がペアとなって同時に立つのが特徴です。打席側の打者が投球を打ち返したら、ペア同士ですれ違うように走り、それぞれが対面側の陣地へと無事に走り込めれば1得点です。
ただし、もし打球の当たりがいまひとつだったら、走らずにそのまま陣地にとどまっても良いというのもクリケットのユニークなところ。
「だから打者のペアは打球が飛んだら瞬時の判断で『イエス』(走るぞ!)や『ノー』(走るな!)と声をかけ合い、連携した走塁をすることが求められます。私を含め試合中には指示を出さず、攻撃はバッツマンのペア同士、守備はキャプテンの判断に委ねるスタイルの監督はプロアマ問わず少なくありませんね」
そう語るジェイコブさんは、自身でも五つのチームに所属する現役のプレーヤーです。彼にとってのクリケットの最大の魅力を問うと、「まさにそうした、攻守で求められるコミュニケーションの綿密さや、チームメイトとの関わりの濃密さがいいところですね」との答えが返ってきました。

3本柱形のウィケットに投球を当てられると一発でアウトとなるため、ヒットを狙うだけでなくウィケットを"守る"スイングが必要な場合もある

「インド人だけのものじゃない」

「来日以来、クリケットを通じてこそ英国、オーストラリア、ジンバブエ、パキスタン、スリランカ、それからもちろん日本――と、実に多国籍の仲間と深くつながることができた。これはインドに住んでいた時には思いも寄らなかった交友の広がりです」。チームメートの出身国を指を折って数えるのを途中で諦め、ジェイコブさんが笑顔を浮かべます。
「そんな中でも僕らインド人は世界で一番クリケットが好きかもしれない。でも、だからといってこのスポーツを独り占めしようなんていうつもりは、ありません。世界中の人と同じフィールドに立てるスポーツとして多くの日本の人にクリケットを知ってもらい、共に盛大に楽しみたいというのが、東京に住む一人のクリケットファンとしての私の夢です」

ヒット性の当たりが飛ぶと、打者(バッツマン)同士はすれ違うようにして対面側の陣地へ走り込む。二人のコンビネーションが試される瞬間だ

江戸川区球場発祥「デュランタベースボール」

続いてもう一つご紹介するスポーツは、江戸川区球場発祥の「デュランタベースボール」(以下、デュランタ)です。
名前に「ベースボール」とあることから明らかなように、デュランタは野球を土台とした球技。ただしピッチャーはなしで、打者が棒状のスタンドの上に置かれたボールを打つことでプレーが進行していきます。
「なにより大切な野球との違いは、攻撃でも守備でも、細かい”役割分担”を認めている点です」
そう力を込めるのは、デュランタの考案者で、区球場グラウンド整備長の蓑田慶彦さん。東京2020パラリンピックに向けたパラスポーツの機運の高まりを受け、2017年に基本的なルールをまとめました。
蓑田さんの言う”役割分担”の代表的なものが、打者代走の制度。野球でも俊足の選手が重要な場面で走塁を引き受ける仕組みがありますが、デュランタでは打者が打った直後の、バッターボックスから一塁へと走るところから代走者を立てることが可能です。
「このルールによって、歩行が難しい方も、打者としてボールをかっ飛ばす面白さを味わえます。一方で、『皆が自分一人に注目するから、打席に立つのだけは嫌だ』という方も意外と多いものです。そうした方は代走や守備に活躍の場がある。デュランタ独特のルールはどれも『野球を誰にでも楽しめるものに』という一心で考えたものです」(蓑田さん)

「当たったよ!走って!」

果たして実際のプレーはどんなものになるのでしょう。今回の特集に当たり、区のパラ陸上教室などに参加している宮原紬さんたちに区球場職員とチームを組んでデュランタに挑戦してもらいました。
ちょうど野球の国際大会をテレビ観戦し、未経験ながら野球熱が高まっていたという紬さん。ルールのレクチャーを受けると、うきうきと車いすをこいで人生初の打席に向かいます。彼女のすぐ隣には、打者代走を任された球場職員。実は100メートルを11秒台で走る、チームきっての韋駄天です。
2度の空振りを経て紬さんのバットがボールを捉えると、「ボコン」という低い音とともに打球は緩く三遊間へ!
「当たったよ!走って、走って!」
紬さんの歓声を背中に聞きつつ、打者代走が駆け出しました。三塁手が転がる打球を受け止め一塁へ送るも、判定は余裕のセーフ!代走した職員と紬さんの間に笑顔が交わされます。

"誰一人取り残さない"ルール改正

にぎやかに進行するプレーを見つめながら、蓑田さんが照れ笑いでつぶやきました。「お恥ずかしい話ですが、5年たったのにいまだに正式なルールブックを公表できずにいます。いろいろな方に体験してもらうたびに新たな条項を足していくものだから、なかなか確定版にたどり着けなくて…」
しかし、あまたのルール改正は、快く汗を流す機会を求めて球場を訪れた人を”誰一人取り残さない”ための創意工夫が絶えず続いている証し。「歓迎」を花言葉とする、藤色の柔らかな花「デュランタ」から名付けられたこの球技は、共生社会の実現に向けた江戸川区のチャレンジを象徴しているといえるかもしれません。

紬さんの守る一塁を巡ってのクロスプレー!衝突防止のため、各ベースを囲む白線内のエリア全体がベースとみなされる

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