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更新日:2022年7月12日

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漆芸 山口敦雄 インタビュー


~厚さ数ミクロンの差を指先で感じる~

お仕事の内容について教えてください

山口さんが作業している写真

華道や茶道で使われる、漆塗りの花器・花台を中心に作っています。
割合としては、花器が3割、花台が6割、茶道具が1割位でしょうか。
漆を磨いで艶をだす、蝋色仕上げと呼ばれる技術が得意です。
かつては漆の艶に関して非常に厳しくチェックされたものですが、現在では品物によっては、逆に艶を出すとクレームがきます。
化学塗料を使っていると勘違いされてしまうのです。
漆を塗る前の生地については、専門の業者に発注していて、それに私が漆を塗り、仕上げます。
主に専門の小売店からの発注で作っているのですが、注文を受けてから納品するまで、約3ヶ月程度かかります。
また、お茶とお花の道具専門に作っていますので、華展が多く開催される秋口、お茶の初釜の1月の、それぞれの前の月位が一番忙しい時期です。
かつては、私のような職人は多くいたのですが、今ではかなり減っています。
蒔絵については芸大等で教えているため、やられている方は結構いるのですが、私のような仕事はどこでも教えていません。本当に寂しい限りです。

お仕事を始められたきっかけについて教えてください

山口さんが作業している手元の写真

私の家は、代々家業でこの仕事を行っていて、私で4代目になります。
先々代が神田、その昔は京橋、先代から江戸川でこの仕事をしています。
物心がつく位から、父の仕事を見ていましたし、手仕事も好きでしたし、道具もあるということで必然的に後を継ぎました。
正式な修行は中学を卒業してからです。
夜は定時制の学校に通いつつ修行しました。
ところが、このまま仕事を覚えていこうとした矢先、私が22才の時に父が亡くなりました。
7年位は父に教えられながら仕事をしていたのですが、後は全く自分の独学です。
父がこんなことをやっていたな、と思い出しながら試行錯誤を繰り返しました。

修行時代にご苦労されたお話を教えてください。

山口さんが語っている写真

私は末っ子で、仕事を継いだということもあり、父の指導は優しかったです。
仕事で失敗すると嫌な顔はされましたが、殴られたことはありません。
ただ、しょっちゅう失敗していたので、いつも嫌な顔はされていましたが(笑)。
やはり修行半ばで父が亡くなったことで、教わっていない技術を身に付けるのに苦労しました。
特に、朱の漆器を作るのに一番苦労しました。
朱の色は早く乾くとまっ茶色になり、ゆっくり乾かすときれいな朱色になります。
しかし、当時は若かったので、結果を早く見たいという気持ちが強く、中々きれいな朱色が出せませんでした。
作業場で寝泊りし、研究に没頭しましたが、漆や調合する顔料、時間も製品も相当無駄にしました。
また、お茶の道具を中心に作っていることもあり、2年位お茶を習いました。
そこで、自分の道具がどう使われているのかを知ることも出来ましたし、お茶席のマナーについて、少し勉強することが出来ました。

作成にあたって一番難しい・手間がかかるところは?

山口さんの道具の写真

全ての工程に手間がかかる手間仕事ですが、特に漆の乾き具合を見極めるのが難しいです。
漆の乾燥は、温度と湿度に大きく左右されます。
そのため、夏は非常に早く乾きます。
あまり乾燥が速いと、表面だけが乾いてしまい、中が乾かず皺が寄ってしまいます。
逆に冬場は乾きが遅いので、噴霧器で壁を湿らせて湿度を調整しています。
その時の天候による調節等は、体で覚えていくしかありません。
以前、ある研究機関で乾燥と湿度との関係を数値化したのですが、やはり長年の経験から身に付けた感覚が一番だと思います。
また、研ぎについても熟練を要します。
塗った漆を研いでいくわけですが、漆を平均に塗っているつもりでも、どうしても厚みの差が出ています。
その厚みの差を感じて、薄いところは避けて研ぐのです。
人が塗ったものは分かりませんが、自分のものはその差が分かるのですよ。

職人になって良かったと思うことは?

山口さんの道具の写真

製品として残るものを作るのは楽しいですね。
製品に名前も入りますし...。
最近は、どうせ残すならいいものを残そうと努力しています。
若い時は、儲けを求めて、手を抜いたこともしましたが、良いものを作ったほうが、自分の楽しみにもなります。
また、使ってくれたお客様が「山口さんの花器を使って花を生けたらすごく見栄えが良かったよ。」と言ってくれると大変嬉しいですね。

気分転換方法について教えてください

山口さんが作業している写真

飲みにいくことが気分転換です。
今、私は町会の役員をしているのですが、町会の仲間とパーッと飲むのが楽しいですね。
以前は、仕事に集中するあまり、一時、ノイローゼになったこともあるのですよ。
仕事場にこもりっきりで、全く表に出ず、ラジオと話をしていました。
そんな時、心配した同級生が飲みに誘ってくれました。
飲んで騒いで帰ってくると本当にすっきりしました。
また、私は江戸川区伝統工芸会という会に入会しているのですが、様々な職人さんとあって情報交換することは、楽しいですね。
工芸会に入って本当に良かったと思います。
やはり外に出るのが一番ですね

今後の目標について教えてください

私でしか出来ない商品、手の込んだ物を作っていきたいと思っています。
製品として残りますから、どうせ残すなら良いものを残していきたいです。
...ですが、作家先生ではなく、芸術家ではなく、職人であり続けたいと思っています。
また、昔は、問屋が職人を抱えて、生活に困らない仕事を出してくれていました。
私も父が得意先としていた問屋の主人に、色々と面倒を見てもらいました。
しかし時代は変り、問屋も無くなり、直接、専門店又は個人の方からの仕事になりました。
私もこれからは、茶道具・華道具のほかに一般の人、特に若年層の人等に向けた作品作りを開拓しなければならないのではないかと感じています。

皆様へのメッセージ

山口さんの顔写真

漆器を日用品として使っていただきたいと思います。
漆器は芸術品ではありません。
私も、良く作品を展覧会等に出品するのですが、会場に空調が効きすぎていると作品が変形してしまうし、スポットライトを当てすぎると色が変色してしまいます。
また、漆器は日本の気候風土に合った製品です。
海外にお土産に持っていったとしても、その土地の気候に耐えられるか分かりません。
お土産や芸術品としてしまっておくのではなく、是非、日常で使っていただいて、漆器の良さを味わっていただきたいですね。

作品紹介

山口敦雄さんの作品はこちらでご覧いただけます。
山口敦雄さんの作品紹介

山口敦雄さんは、美術大学(多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学)と連携し、新しい伝統工芸製品を創る えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト に参加しています。プロジェクトで創作した製品はこちらをご覧ください。

  • プロジェクト製品紹介 1
  • プロジェクト製品紹介 2
  • プロジェクト製品紹介 3

えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト

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このページは産業経済部産業振興課が担当しています。

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