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更新日:2024年1月1日

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特集 令和6年新春対談 子どもたちの心を育む本の魅力

CCBY 但し、画像データは除きます

 

 

謹賀新年 明けましておめでとうございます。


写真:斉藤 猛 江戸川区長、角野 栄子(かどの えいこ)さん 児童文学作家

角野 栄子さん

1935年東京都生まれ。3歳から23歳まで北小岩で過ごす。出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年間滞在。その体験を元に書いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。

代表作『魔女の宅急便』は1989年にスタジオジブリ作品としてアニメーション映画化された。2018年国際アンデルセン賞作家賞を受賞。翌年、江戸川区区民栄誉賞を受賞。

  • 区長 本日は昨年11月にオープンしたばかりの魔法の文学館で、角野栄子さんにさまざまなお話を伺っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
  • 角野 よろしくお願いします。

面白い本をくつろぎながら

  • 区長 角野さんには、魔法の文学館の館長をお務めいただいております。すでに多くの皆さんが来館されて、角野さんの本の世界を体感されていますね。
  • 角野 お子さんたちが夢中になって本を読んでいる姿を見ると、何だかとてもうれしいですね。
  • 区長 魔法の文学館の構想から完成まで5年という月日を要しましたが、今思うとあっという間だった気がします。
  • 角野 私も同じです。この文学館構想に関わった多くの皆さんと楽しい時間を過ごせて、本当にあれよあれよという間に出来上がったなと感じます。
  • 区長 設計を担当された隈研吾(くまけんご)さんは「来館した方に自分の家のリビングのようなつもりでここを使ってもらいたい」という思いを込めて作ってくださいました。
  • 角野 そして中のいちご色のコリコの町を見たら「あっ、ここは面白そう」とワクワクが始まる。いらしているお子さんたちの姿を見ると、それがよく分かります。あぐらをかいて本を読んでいたり、寝転んで読んでいたり、私はああいう姿を見るととてもうれしくなるんですね。きちんと座って読むのも結構だけど、何かこうダラっとしながら本を読んでいるのは、本当にこの場所が好きなんだなと感じます。
  • 区長 そして、この館内には角野さんに選んでいただいた1万冊の本があります。選ぶに当たって力を入れた点はどこでしょうか。
  • 角野 まず初めに考えたことは、お子さんが成長するにつれ、自分1人で本を読む時期が来るということです。小学1年生くらいで文字を習い、文字を覚えてうれしくてたまらない子どもたちが、自分の力で本を最初から最後まで読んだっていう、その楽しさをここでは味わってほしいなと思ったんです。ですから、その年齢のお子さんたちが面白いと思う本を中心に置こうと決めました。
    それで物語が面白いものを多く選びました。もしかすると親御さんが見たら、ちょっと読ませたくないと思うようなものも私は入れました。それは選択の自由を子どもたち自身に持ってもらいたいと思ったからです。


なぎさ公園の展望の丘に建つフラワールーフが特徴の児童文学館。館内は「いちご色」に彩られた世界が広がります。

五感を揺さぶる本の数々

  • 区長 角野さんのファンの方はお子さんはもちろんですが、中高生から高齢者まで幅広い層の方々がいらっしゃいますね。これは角野さんから見てどうしてだと思われますか。
  • 角野 私が幼年童話を書き始めたのは今から四十数年前ですから、その時に読んだ方が7歳だとすると、50歳くらいになられています。そのお子さんに本を買ったお母さんはさらに70歳代くらい。3代・4代と続いているからだと思います。
    中には、本を読んで自分の生き方が決まったような方もいらっしゃるんですよ。自分の味覚は角野さんの書いたカレーライスの話で決まったんですとおっしゃる方もいますし、幼い頃に『おばけのアッチ』を読んだことをきっかけにフレンチシェフになられた方もいらっしゃいます。
  • 区長 本から味覚を得たという話は初めて聞きました。シェフにまでなられた方もいらっしゃるんですね。
  • 角野 アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけシリーズに『ハンバーグつくろうよ』っていう本があるんですけど、幼い時にそれを読んで作ってみたそうです。すごくおいしかったそうで、その味が忘れられずフランスへ渡って有名レストランのシェフをなさった後、日本で自分のお店を持たれたそうです。その方からお手紙をいただきました。
  • 区長 確かに角野さんの本を見せていただくと、いい匂いがしてくるような、お腹が減るような、そんな五感をくすぐられる本ばかりですね。
  • 角野 私は本を書いたら、声を出して何回も読むんです。それでちょっと直したり。だから言葉の面白さとかリズムとかは、すごく気を遣って書いてるんですけど、リズムって意外と、ものがそこに現れるような感覚があるんですよね。だから、きっと味覚にまで影響を及ぼしているのかもしれません。
    それと子どもも声を出して読みますよね。その時に読みやすく心が弾んでくるように、そして本に書いてあることが風景のように浮かんできてもらえればいいなと思って書いています。
  • 区長 多くの方が自分なりの風景、あるいは自分なりの匂いとか、味覚を感じているんですね。

1万冊の本から1万通りのワクワクを

  • 区長 ここからは角野さんの創作の原点について伺いたいと思います。角野さんは3歳から23歳まで北小岩にお住まいだったとお聞きしています。当時の思い出をお聞かせください。
  • 角野 私の家は、江戸川の土手からさほど遠くないところにあったんです。土手は今のように護岸が整備されていなかったので、草が伸び放題でした。そういう土手を上から体を横にしてゴロゴロと何回も転げ降りて遊びました。また、その頃は学校にプールなんてありませんでしたから、夏は江戸川の川岸を囲うようによしずを張ってプールのようにしたところで水遊びをしていました。
  • 区長 土手の草だったり、川だったり、自然そのものが遊具の代わりだったということですね。
  • 角野 他にもザリガニを捕ったりトンボを捕ったりと、本当にアウトドアの遊びが多かったですね。
  • 区長 江戸川区は三方を川と海に囲まれていて、水とみどり豊かなまちと言われ、子どもたちに人気の動物園や水族園もあります。そしてラムサール条約の湿地に登録された葛西海浜公園は、2万羽の野鳥が飛来します。都会にいながら鳥や魚、動物と出会え、触れ合えるのも、江戸川区の魅力の一つだと思っています。
    こうした自然の環境というのは、私たちの生活に安らぎを与えてくれますし、なによりもお子さんの心を育むものでもあるんじゃないでしょうか。この自然豊かな地に魔法の文学館があるのは、本当に価値があることだと思います。
  • 角野 本当に美しい公園ですね。今はあまりお子さん1人で散歩とか、学校帰りの寄り道とかはできないですよね。昔は寄り道なんかしているといろいろな発見があって楽しくって、そこから何か自分の好きなものを見つけたりしていたんですけど、それが少なくなっている。代わりにそういう面白さがあるのは本の中だと思うんです。これからどうなるのかなと思うような冒険が物語の中にはあると思います。それでたくさんの本を通じて新しい発見ができるこのような文学館の存在は非常に大切だと思います。
  • 区長 ここにある1万冊の本には1万通りの発見や、1万通りのワクワクがあるということですね。本当にお子さんの心を育む大切な要素だと思うんですが、角野さんには区内の小中学校や子ども未来館で本の読み聞かせ会をしていただきました。子どもたちにとっては本当に貴重な、角野さんとの交流の場になったと感じています。子どもたちのワクワク感や想像力はやはり本の中から出てくるもので、そういったところをこれからも大事にしていければと思っているんですが。
  • 角野 心が開放されてドキドキ、ワクワクして、また現実の世界に帰っていくっていう経験が本ではできるので、その楽しさをまず幼年童話から始めてほしいと思います。幼年童話を中心にして長い物語もある程度しっかり選書したというのは、そういった理由もあるんです。
  • 区長 そうすると、ここに来れば宇宙にも行けるし、海の底にも潜れるし、空も飛べちゃうわけですね。
    そして、今年の干支は辰です。辰は十二支の中で唯一実在しない生き物ですけれども、物語の中ではよく登場します。角野さんの物語にもよく、おばけや怪獣が登場しますが、物語の中で夢や想像力を膨らませることができるのも、本の素晴らしさの一つだと思います。

自分で自由に本を読んでもらうために

  • 区長 江戸川区は平成24年から全国初の取り組みとして全ての区立小中学校に「読書科」を設置し、全国から大きな注目を集めました。今、角野さんとお話をさせていただいていると、難しい言葉じゃなくて、本当にそのまま自分が感じた喜怒哀楽というものを素直に表現できるようになるのが読書なんだと改めて感じます。
  • 角野 自分の好きな本を自由に選んで、読みながらいろいろなことを想像して、自分の物語を本の中から作っていくような、そういうことができる本を文学館に置いています。1万冊というのはとてもたくさんの本ですが、それを図書館みたいにきれいに並べないで、科学の本も物語も図版も写真集もみんなバラバラに並べました。その中から自分で興味を持ったものを探す方が、強い力を持ってその人に何かを与えてくれると思ったからです。私は家でも本の整理が下手なんですが、探している本と違う本が見つかって、かえって面白い時もあるんですね。そんな経験をこの魔法の文学館ではしてもらいたいなと。だらしなくてそうしているわけじゃなくて、密かな狙いがあってやっていることなんです(笑)
  • 区長 実は区立の図書館は12あるんですけれど、どの館でも1階の利用しやすい場所に児童書のコーナーを設けるようにしています。児童書だけを集めた篠崎子ども図書館もあり、区全体で蔵書が46万冊、年間でおよそ190万冊の貸し出し数があります。普段は他の図書館を利用しているお子さんもぜひここに来てもらって、違った楽しみ方をしてもらえればいいなと思っています。
  • 角野 文学館にはなくて図書館にはある本もありますし、長い本を読んで途中で帰らなくちゃならなくなったら図書館に立ち寄ってその続きを読むこともできるし、そういう交流ができればいいですよね。
  • 区長 そして、区立図書館では2年前から、角野さんの作品のキャラクターをデザインしたバッグを利用登録してくれた子どもたちに無料でお配りしています。大変好評で多くの子どもたちが愛用してくれています。


本棚にはさまざまなジャンルがバラバラに並べられ、気に入った本を見つける楽しさがあります。


区立図書館で利用登録をした子どもたちにお配りしているバッグ。配布枚数は1万4000枚を超えています。

本が持つ魔法で“自由”と“自主性”を育む

  • 区長 角野さんは“自由”と“自主性”を大切になさっていますね。
  • 角野 この文学館で自由に本を選んで読んでいくと、本の中の言葉をおのずと自分の中に吸収していくと思うんです。本を読むことで創造力が生まれてきて、例えばこの本はこういうお話なんだけど、こういうお話もあるかなって自分で作ってみたくなるんですよね。そういうふうに自分の言葉を本から獲得していくと、自分を表現する時に、自分の言葉で語ることができると私は思います。大人になるにつれて、人と同じことを言っていれば問題ないって思いがちだし、そう言っていれば楽だけど、これからの世の中は自分の言葉を使い、自分というものをはっきり語れる人が必要とされていくんだろうと思うんです。この文学館には、そういう力が身につく魔法があります。
  • 区長 本を自分で選んで読むということが、自由や自主性を育むきっかけとなるわけですね。とても素晴らしい魔法だと思います。

思い出は“生きる力”に

  • 区長 魔法の文学館は開館から2カ月が経ちました。ここで改めて角野さんから魔法の文学館に訪れる子どもたちへメッセージをお願いします。
  • 角野 文学館は絶対楽しいところです。それは断言できますし、自分で自由に本を選べるというところが子どもにとっては魅力じゃないかと思います。ここに来るといろいろなものと出会えるし、このいちご色のおうちがいっぱい建っている文学館に行ってこんな本を読んだよっていう思い出は、その人の一生の力になるんじゃないかと私は思うんです。思い出というのは一つの力ですから、幼い時でも大人になって年を取っても、あそこに行ったんだと言えたとしたら、これはこの文学館の魔法に違いないと思いますので、ぜひここにお越しになってほしいです。
  • 区長 思い出はそのまま“生きる力”に繋がるということですね。
  • 角野 そうです。小さい頃、江戸川の土手で遊んでいたその時は、ただ楽しいひとときでした。でも、長く生きているとあの時のワクワク感がとても懐かしくて、そこから生き生きとした力をもらえるんです。
  • 区長 そうですね、ここに来てワクワクする気持ちを皆さんに持っていただきたいですね。私もこの魔法の文学館をはじめ江戸川のまち全体をますます盛り上げていきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
  • 角野 皆さんのお力を借りながら、私も館長として文学館をさらに成長させていきたいと心から思っていますので、ご協力をお願いいたします。
  • 区長 本日は貴重なお話をありがとうございました。
  • 角野 ありがとうございました。

このページに関するお問い合わせ

このページはSDGs推進部広報課が担当しています。

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