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「誰も追い込まれることのない社会の実現」を目指して

特定非営利活動法人 自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水康之さんは江戸川区の自殺対策アドバイザーを務めています。子どものころに「生きづらさ」を感じた経験から自殺対策の必要性を訴え、さまざまな角度からの支援を続けています。今回は清水さんと、もっとも大きな社会問題のひとつについて考えていきます。

清水さんのご経歴を教えてください。

日本社会の生きづらさ・息苦しさを変えたい

私はもともと三兄弟の末っ子で、学校の成績を上の二人と比べられながら育ちました。自分の中では「学校の成績で人の価値は決まらない」と思いながらも、いつしか心のどこかで「自分は失敗作ではないか」という不安を抱くようになりました。中学を卒業してから進学校に入学したものの、成績は振るいませんでした。学校に漂う「成績が悪い生徒は人間的にダメだ」という空気に違和感を覚えるようになり、1年で中退。大学受験に必要な資格を取るために都内の予備校に通いながらも、一度抱いた生きづらさは解消できず、父親の知り合いを頼って逃げるようにアメリカに渡りました。

アメリカでは肌の色や髪の色、服装も違う人々が一緒に暮らしていて、さまざまな価値観を持つ人がお互いを受け入れていることに衝撃を受けました。同時に、自分が「生きづらい」「暮らしにくい」と感じていた原因のひとつは日本の画一化された価値観や同調圧力であり、「いつかこの社会の生きづらさや息苦しさを変えていく取り組みをしたい」と考えるようになりました。日本に戻り、大学を卒業後はNHKに入局。ドキュメンタリー番組の制作を通して「我々はどう生きればいいのか」を追求してきました。

ドキュメンタリー制作に打ち込んでいたころ、親を自殺で亡くした子どもと出会いました。自殺により亡くなる人たちは、この社会の生きづらさや息苦しさをもっとも凝縮した形で受け止めざるを得なくなって亡くなっている。そのことに気づき、自分が突き詰めたかったテーマはこれだと感じました。しかし番組を通し、自殺対策の必要性を訴えたものの、事態が改善しているようには思えませんでした。そこで自分自身で問題にアプローチするためにNHKを退職し、2004年に自殺対策支援センター「ライフリンク」を設立しました。

日本が抱える自殺の問題をどうご覧になっていますか?

自殺者がもっとも多かった2003年は、1日に約100人が自殺で亡くなっている厳しい状況でした。2006年10月に施行された「自殺対策基本法」では、それまで個人の問題とされてきた自殺を社会問題であると定義。社会全体で対策を推進するための枠組みが制定されました。その取り組みが現場に届き始めた2010年からは10年連続で年間自殺者数が減少し、2019年には2万人を下回るラインが見えてきましたが、コロナ禍で再び増加。しかし、もっとも多かった時期と比べると減ってきています。

一方で、小中高生の子どもの自殺者数はむしろ増加傾向にあり、極めて深刻です。また、コロナ禍で支援が不足し、必要な人に届け切れていないことも事実です。全体傾向として、自殺者数が減少しているとはいえ、日本はG7の中でもっとも自殺死亡率が高いままでもあり、対策をより強化すると同時に社会全体で、自殺の危機に直面している人に十分な支援を届けていくことが必要です。

自殺対策基本法にはどのような役割がありますか?

「啓発」と「実務」の2つの側面があります。啓発という面では、誰もが自殺に追い込まれることのない社会にしていくことが大事だというメッセージを発信していくことが、この法律が果たしている非常に重要な役割です。自殺というのは命を絶たざるを得ない状況に追い込まれてしまうこと。だからこそ、その対策は「生きる」を支援することなのです。死にたいという気持ちを頭ごなしに否定するのではなく、その人が生きる道を選び取れるような社会にしていくことが大切です。

実務の面では、国が自殺対策に財政的な措置を講じなければならないことを定めたり、都道府県や区市町村が地域の自殺対策計画を策定することを義務化していたりと、より実践的な自殺対策の大きな根拠となっています。

江戸川区の自殺対策アドバイザーに就任された経緯を教えてください。

多様化した悩みや課題を解決するために必要な“地域力”

きっかけは、自殺対策基本法で義務付けられている各自治体の対策計画の立案です。当時の私は、日本全国で自治体のトップが自殺対策の旗振り役を担うことの重要性を訴える講演会を行っていました。私は自殺対策が地域づくりに直結すると考えています。自殺に追い込まれる原因となった悩みや課題を解決し、生きる道を選べるような地域になるということは、結果としてその地域に住んでいる誰もが「生きやすい」と実感できる地域づくりにつながります。しかし、複雑化・多様化した社会の問題を、縦割り行政で対応することは困難です。そこで、現場でのニーズを踏まえ、さまざまな窓口や関係機関が柔軟に連携して、地域住民の抱える悩みや課題を速やかに解決する“地域力”が大切になってきます。そして、誰一人置き去りにすることなく、地域住民の暮らしや命を守れる自治体になるためにも、自殺対策計画の策定は非常に重要なのです。

しかし、計画を作るのも大変な作業です。そこで、対策計画策定の義務化にあたり、ガイドラインを作ろうと思いました。頭の中だけで作ってもそれは机上の空論になりかねないと考え、自治体と協力しながら計画を作り、それと並行してガイドラインを作成することを思いつきました。その自治体が、江戸川区でした。江戸川区に通いつめ「どうすればこの計画が地域の資源を最大限に生かしたものになるのか」と担当の方たちと試行錯誤しながら計画を作り上げました。今では、その計画と一緒に作ったガイドラインを基に、全国の約1700の区市町村で自殺対策計画が作成されています。

身近な人が悩んでいるとき、私たちにできることはありますか?

相手に寄り添い、悩みを言える関係を

相談された場合は、気持ちを受け止めることから始めます。相手は「この人ならこの気持ちを聞いてくれるかも」と思って打ち明けてきているはずです。それにもかかわらず、流してしまったり、否定したりすると、「やっぱり誰にもわかってもらえない」と気持ちを閉じ込めてしまうことになりかねません。「つらい気持ちでいるんだね」「よかったら聞かせてくれませんか」とちゃんと受け止めて、その人の気持ちに耳を傾ける、その一歩が大切です。

その中で具体的に解決すべき悩みや課題があれば、一緒に解決するために寄り添い、場合によっては支援機関や相談窓口に同行するなど、その人を孤立させずに同じ方向を向いて支えること、それを感じ取ってもらえるような姿勢を見せることが支援につながります。

しかし、周囲に相談できない人もいます。特に中高年の男性の自殺は全国で約35%を占めていますが、「男性は弱音を吐いてはいけない」「相談するのが恥ずかしい」と思い込んで、なかなか悩みを打ち明けられない人がいるのが現状です。様子がおかしいなと感じたら、見過ごすのではなく、例えば自分から自分の抱えている悩みを打ち明けてみてはどうでしょうか。「この人とは悩みを言ってもいい関係性なんだ」と思ってもらえれば、「実は…」と悩みを切り出してくれることにつながるかもしれません。そうやって「実は…」が言いやすくなるような会話を心がける。そして、一緒に問題を解決していく…。そういう支援が必要だと思います。

「死にたい」という気持ちを抱えてしまったら、どのようなアクションをしたらいいでしょうか?

支えになろうとしている人がいることを知ってほしい

いきなり相談しようと思っても勇気が持てなかったり、相談しても相手にされないんじゃないかという恐怖心を抱いていたりする人もいると思います。江戸川区をはじめ自治体や地域にもさまざまな相談窓口や支援策がありますので、まずは、自分の支えになろうとしてくれている存在がたくさんいるということを知っていただきたいです。

それと同時に、死にたいという気持ちを抱くよりもずっと手前の段階で知っておいてほしいことでもあります。避難訓練と同じで、「死にたい」という気持ちを抱いたときに、どこに避難経路や非常口があるのかを確認しておくという意味でも、ぜひ、このインタビューをお読みの皆さんも含め、身の回りの相談窓口や支援策を調べてみてほしいです。

具体的にどのような相談先があるのでしょうか?

例えば、私がライフリンクとは別に代表理事を務めている一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」のホームページには「こころのオンライン避難所」というページがあります。ここでは、気持ちの落ち着け方やリラックスの仕方などの情報をまとめています。自分に合いそうな心の守り方を知ってほしいです。

ライフリンクでも24時間365日電話相談を受け付けています。江戸川区のように、連携協定を結ばせていただいている自治体にお住まいの方であれば、相談者の方の了承を得たうえで各自治体と連携しながら実務的な支援を行います。

さらには、江戸川区には多様な国の方がお住まいですが、一般社団法人「社会的包摂サポートセンター」という団体が「よりそいホットライン」を開設し、いろいろな言語での相談も受け付けています。

清水さんが目指す社会のあり方を教えてください。

一人ひとりが人生・存在に意味を感じられる社会に

一人ひとりがそれぞれの人生を歩み、それぞれの存在について意味を感じることができる社会を目指しています。「自分はこういう理由で、こういう存在に囲まれながら、こういうことをするために生きている」という実感が足場となり、命の危機に陥っても力強く踏ん張ることができるのです。そしてそれが、苦しいことを受け入れたり乗り越えたりしながら生きていこうと思える原動力になると思います。

多様性を認め合うことが重要な時代ですが、それはつまり自分の多様性を周囲に認めてもらえるということでもあります。画一的な型にはめて人を評価したり、否定したりするのではなく、それぞれの存在が意味や価値を持てるような環境を作ることが、結果として地域の活力にもつながると信じています。

記事を読んでつらい気持ちになった方へ

相談窓口や気持ちを落ち着かせる方法を紹介します。

  • #いのちSOS(電話・メール相談)0120-061-338
    24時間365日相談を受け付けています。
    #いのちSOS別ウィンドウで開きます
  • 生きづらびっと(SNS相談)
    LINEでの相談に対応しています。
    生きづらびっと別ウィンドウで開きます
    LINE別ウィンドウで開きます
    Webフォーム別ウィンドウで開きます
  • こころのオンライン避難所
    気持ちを落ち着かせる方法を紹介しています。
    こころのオンライン避難所別ウィンドウで開きます
  • かくれてしまえばいいのです
    生きるのがしんどい人のためのWeb空間。死にたい・消えたい気持ちをやり過ごしたり、それらと向き合ったりすることのできる、オンライン上の「かくれが(空間)」です。
    かくれてしまえばいいのです別ウィンドウで開きます
  • よりそいホットライン 0120-279-338
    電話、FAX、チャットやSNSでの相談が可能です。
    現在、10言語での相談に対応しています。
    We currently offer consultation in 10 languages English, Chinese, Korean, Tagalog, Portuguese, Spanish, Thai, Vietnamese, Nepali and Indonesian.
    よりそいホットライン別ウィンドウで開きます

プロフィール

清水 康之

清水 康之(しみず やすゆき)

NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク 代表
厚生労働大臣指定法人・一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター 代表理事
超党派「自殺対策を推進する議員の会(議連)」アドバイザー

元NHK報道ディレクター。2001年、自殺で親を亡くした子どもたちを1年がかりで取材・制作した番組(クローズアップ現代)『お父さん、死なないで ~親が自殺 遺された子どもたち~』を放送。その後も、自死遺児や自殺で亡くなった人の遺書、自殺対策について取材を続けるが、推進役のいない日本の自殺対策に限界を感じ、自ら対策に取り組もうと2004年春にNHKを退局し、同年秋にNPO法人ライフリンクを設立。以来、日本の自殺対策を推進するために活動を続けている。2009~2011年、内閣府参与として政府の自殺対策を担当。2023年IASP(国際自殺予防学会)「リンゲル活動賞」受賞。