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幼い子どもと触れあったりするとき、その子の未来を想像したりする。
この子が今の自分くらいの歳になったとき、社会はどうなっているんだろう。そのときこの子は、どんなことを思いながら、どんな生活をしているんだろう。さらにこの子の子どもの世代に、世界はどうなっているんだろう。
未来の世界、というと『ドラえもん』のことが思い浮かぶ。
僕が小学生だった頃から『ドラえもん』は大人気だった。着の身着のままで空を飛んだり、ドアを開けたら南の島だったり、机の引き出しから孫に会いに行ったり、家で釣りができたり。そこには幸せで便利な未来が提示されていた。
ドラえもんが版を重ねるうちに、四次元ポケットから出てくる「ひみつ道具」とまではいかないが、たくさんの便利なものができた。ドローンが自在に空を飛んだり、スマホでいろんなことが出来たり、AIの技術が進んだり、お金が電子になったり。人間に好奇心や欲がある限り、この先も技術の進歩は止まらないだろう。
ではこのまま待っていれば、幸せで便利な未来がやってくるのか、というと、そうでもなさそうだ、というのが多くの人の共通認識だろう。エネルギー問題、貧困問題、人権問題、食糧問題、気候問題。科学技術だけでは解決できそうにない問題を、身近に感じることも多くなった。
最近、SDGsという言葉をよく聞くが、これは標語やスローガンのようなものではない。訳すと「持続可能な開発目標」ということだが、持続可能な世界を創るための“具体的な目標”のことを指すらしい。
“具体的な目標”は、僕らの「ひみつ道具」のスマホで検索すれば、三十分くらいでざっと目を通せる内容だ。SDGsの中身として、まず達成すべき大きな目標が17個ある。そのための169の具体的な数値目標がある。
169項目のうち自分に関わりがありそうなものを探してみると、いくつかは自分自身の課題にできそうなことが……あった。確かに、ある。これを達成するには、いつ頃までにどうすればいいかな、などと考えることもできる。深刻に考えるわけはなく、こういうのも結構楽しいな、と思いながら考えられた。
今、このエッセイを書いたことがきっかけで、自分にとっての「持続可能な開発目標」ができてしまった。みなさんもちょっと調べてみたら、きっといくつかの自分に関わりのある目標が見つかると思う。
世界を持続可能なものにしなければ、(人間にとっての)未来そのものがなくなってしまう。だから未来を生むための、自分と関わりのある具体的な目標——。
現在の自分がした判断や行動が何らかの未来を形作り、違う行動をしたら違う未来が生まれる。こうしている今も、さっきの出来事も、確実に未来へと繋がっている。つまり僕らはいつだって、未来とともに生きている。
未来への目標や夢を持てば、未来とともに生きていることを、もっと実感できる。もしかしたら目標や夢こそが、僕らの「ひみつ道具」なのかもしれない。
小説家。2002年『リレキショ』にて第39回文藝賞を受賞しデビュー。
続く『夏休み』、『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。
ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』、『トリガール!』等、映像化作品多数。
アプリゲームがユーザー数全世界2000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream!』のストーリー原案・作詞等幅広く手掛けており、若者への影響力も大きい。